• 安部修仁会長 インタビュー
  • おまけ:TVCM制作秘話(2016)

山崎貴 監督

撮影にあたり監督が一番こだわったのは、「タイムスリップ感」。リアルな昭和に連れていくのではなく、「誰の心の中にも存在する昭和の残像の中に連れていく」というアプローチをもとに、セット、美術、衣装、メイク、そしてお芝居の中にも取り入れたそうだ。
今回「昭和30年代」を舞台に描かれるTVCMとあって、菅田さんを筆頭に「昭和顔」と言われていないが実は「昭和顔」の「隠れ昭和フェイス」をキャスティングした、と監督は言う。
お芝居にも昭和のニュアンスを取り入れ、リアクションのスタイルにしても、「昭和しぐさ」といわれる古臭い感じをあえて導入し、オーバーリアクションといっていいほどの演技が「昭和くささ」をより一層際立たせているのも今回のTVCMシリーズの見所となっている。
喜劇に強い福田雄一さん(『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』作家『勇者ヨシヒコ』シリーズ脚本・演出)が脚本を担当した本作。
監督いわく「今っぽくない、昭和らしいコントを目指した」とか、当時の大らかな空気をはらんだ喜劇もこの作品の大きな魅力となっている。

脚 本

今回のCM作品の脚本は今や日本を代表する喜劇作家、福田雄一氏が担当した。氏は舞台、TV、映画と多岐に渡り活躍しているが、シリーズCMは初めてだそうだ。学生時代から吉野家の大ファンで吉野家一筋一度も浮気した事がないらしい。だからこの作品のオファーが来た時は天にも昇る気持ちで二つ返事で引き受けた。快諾したもう一つの理由は尊敬する山崎監督からのオファーであった事だった。
監督からは「主人公が成長していく物語。面白いもの」とだけ注文が来た。
まずはじめに主人公のキャラクターの造形から取りかかる。ここでのポイントはあえて主人公の欠点を見つけることだという。主人公は少し「抜けている」ところがあった方が周りの人物がそれを補ったり、つっこんだりする事で物語が豊かになるのだとか。今回菅田さん演じる主役には「勢いだけで突っ走り、思った事をすぐ口に出すお調子者」という欠点が肉付けされた。
さらにこだわったのは今風の笑いと昭和の笑いを散りばめる事だった。意識したのは「高度経済成長を感じさせる全体に元気な笑い」だった。本編でも主人公が夢を語り調子にのり大将に叱られる場面が印象的だ。
また当時流行ったギャグを入れることで、それを知らない子供達とのコミュニケーションが生まれれば…との思いも込められている。
今回一番良かった事は山崎監督とタッグが組めた事。自己表現ではなく見る人の視点にたってエンタテインメントに徹しているところに共感を覚えた。笑いは千差万別で共通点は見つからない。このCMで自分の作った笑いを幅広く届け、その反応を確認できた事が一番の収穫であったと氏は語る。笑い作りのプロの貪欲さを感じた。

美術デザイン

当時の写真や資料が少なかったため、安部会長を始め様々な方の記憶などもMIXして昭和30年代頃の築地一号店をデザインしたそうだ。 「リアルに再現というよりみんなの記憶の中の築地一号店を目指した」とデザイナーの弁。
店のカウンターは当時の素材ではなく「米松」をあえて使用。一本の木を買いそこから割いた代物で、手のかかったまさにこだわりのカウンターに仕上がった。
店の外観では当時の最先端技術だった扉が開けっ放しの店内に虫が入らない為に使用する入り口にあった「エアカーテン」も再現。
また、セットは全体にあえて汚し(エイジング)を強目に入れたそうだ。これにより当時のムード、空気感がより強調されている。
セットを飾る装飾品にも細かなこだわりを感じさせる。爪楊枝は創業者のこだわりで「黒文字楊枝」を使用していたそうで、劇中の役者に使用させている。
壁についた箸入れや、お客様の手鉤(荷物や大きな魚などを引っ掛けて持ち上げるのに使う道具)も関係者の記憶から採用したり、壁に這う碍子や昭和30年代のテレビが時代を感じさせる。

装 飾

装飾部とは美術部が作ったセットに家具、食器、装飾品などを配置し画面を飾っていく仕事である。今回の築地一号店で言えば、箸箱、丼、湯のみ、テレビ、厨房の中の炊飯器、ずんどう、壁に貼られた注意書き…など。当時の物や、資料を元に作成したものなども交じりセットをリアルなものへと仕上げている。
しかし飾るのはそこだけではない、築地の他の店舗や、道行く人達も飾らなければいけない。鰻屋の前に置かれた一升瓶、バケツ、公衆電話、洋食屋のショーケースに並べられたサンプル、美容室には当時の「くるくるネオン」も、さらにトロ箱を運ぶ台車や自転車…etc。今回の作品ではこれらが全て重要なキャストとなる。
本作での装飾のポイントを聞くと「画面に映る物はもちろん、ほとんど映らない場所にもこだわった」とのこと。
例えば、築地一号店の斜め向かいにある卵焼き屋のショーケースに本物のだし巻きを並べたり、お店の中には本物の卵を置いたり、美容院の中には当時のヘアモデルの写真が貼られたりと教えてもらわないと気付かない場所もしっかりと飾られていた。
「こういう細かな積み重ねが、作品全体に重厚感を与えられると信じていつも飾っている…」こういうプロ達の想いと技術が作品を魅力的なものへと昇華させていくのだろう。
CMにちらりと映る店の中にどんな物が飾られているのか?そんなことを想像して観ればさらに作品が豊かなものに感じるかもしれない。

河村泰貴 社長のコメント

今の「吉野家」があるのは、築地市場に一号店を構えたからに他ならない。築地市場は「吉野家」の成長を厳しくも、温かく見守ってくれる存在だった…そんな「築地市場への感謝の気持ちを形にしたい…」この思いから今回のCM制作は始まりました。

築地市場と共に「吉野家」は成長していきました。
築地一号店は、先代の社長である安部をはじめ、弊社の歴史をつくってきた先輩たちが、アルバイトから経験し成長させて頂いた、青春の学び舎でもあります。
それ故豊洲への移転には少し寂しい思いもあります。
豊洲新市場のお店でも、築地一号店の魂や伝統はしっかりと受け継いでまいります。
これからも吉野家をご贔屓のほどお願い申し上げます。

築地一号店閉店まで

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